自衛隊生徒は、中学校卒業後に自衛隊に入隊し、4年間の教育期間を経て、19歳~20歳で3等陸曹となり、将来の陸上自衛隊を担う中枢として大きく活躍できるための教育を受けることができます。定年までに大半が幹部になると言われています。
将来、陸上自衛隊において、高機能化・システム化された装備品を駆使・運用するとともに、国際社会においても自信をもって対応できる自衛官となる者を養成するために、中学校卒業予定者等を対象に採用する制度です。
そのため、個人の適性に応じて、幅広い教養と豊かな人間性を養い、将来陸上自衛官として大きく進展できる基礎を作ります。
参照:【自衛官募集ホームページ:高等工科学校生徒】
私自身、15歳のときに第52期生の試験を受け、晴れて自衛隊生徒として自衛隊に入隊しました。当時はまだ【少年工科学校】でしたが、現在は【高等工科学校】という名称に変わっており、制服や身分も当時とは大きく変わっています。
自衛隊生徒(生徒陸曹候補生課程)って何をするの?
生徒陸曹候補生課程は計4年間あるのですが、最初の3年間は前期課程(生徒課程)として、神奈川県横須賀市(武山駐屯地)にある、高等工科学校(旧:少年工科学校)にて一般教養を身につけながら、自衛官として必要な素養を身につけます。
その後、半年から9ヵ月の間、それぞれの職種についてより専門的に勉強するために職種学校(中期課程)へ入校します。中期課程が修了すると、残りの期間は実際に部隊へ配属され、後期課程へと入ります。
後期課程も終わると、いよいよ生徒課程も修了となり、晴れて3等陸曹へと任命されます。このとき正式に部隊配属を命じられます。
また、自衛隊生徒として入隊すると同時に、提携している高等学校(当時は、神奈川県立湘南高校)に入学し、普通の高校と同等の教育を受け、前期課程修了後には高等学校の卒業資格を取得することができます。(現在は神奈川県立横浜修悠館高校の卒業資格が得られます。)
高等学校(普通科)と同等の教育を受けるとともに、併せて技術的な識能を有する陸曹として必要な各種技術の専門教育、防衛基礎学や各種訓練を受けることになります。
自衛隊生徒の昇任
生徒陸曹候補生課程を修了すると、19歳~20歳という若さで3等陸曹へと昇任します。
私が生徒だった当時は、少年工科学校へ入校すると同時に、【3等陸士】という階級になり、この時点から自衛官として鍛えられていました。1年半後(2学年後半時)に【2等陸士】へと昇任し、さらに半年後(3学年進級時)には【1等陸士】へと昇任。生徒課程卒業後に【陸士長】となり、部隊配属後には3等陸曹へと昇任しました。
3等陸士という階級は、少年工科学校の生徒にしか与えられない階級(平成22年10月1日をもってなくなりました)だったため、誇らしく思っていました。
現在は生徒課程の間は【自衛官】ではなく、【特別職国家公務員(生徒)】という身分ですが、生徒課程を修了すると『陸士長』になり、ここから自衛官という身分になります。
早い人だと4年(1選抜)で2等陸曹へ昇任し、やがては大半が幹部へと進んでいきます。
当時、生徒出身者は定年までに7割が幹部になり、1割が技術責任者として陸曹長となる道を選び、残りの2割が退職して違う職へと進んでいく。なんて言われていました。
それくらい幹部になりやすいのが生徒の特徴といえるでしょう。まさか、自分が2割の退職組になるとは当時はまったく思っていませんでしたが(笑)
陸上自衛隊高等工科学校に入学するには
自衛隊生徒として高等工科学校に入るためには、普通の高校と同じように受験をしなくてはいけません。私が生徒だった時は倍率32倍といわれており、それなりの学力が必要でした。現在では東日本大震災以降、自衛隊への関心も高まっているのでおそらく当時よりも受験者数が増えていると予想されます。
また、当時はなかったのですが、平成22年度より推薦での受験が導入され、学校長の推薦があれば、推薦入試を受けることも可能です。
自衛隊生徒の受験にはいくつか条件があり、これをクリアしていないと受験資格を満たさないので今一度確認しておきましょう。
自衛隊生徒の受験資格
- 15歳以上17歳未満の男子
- 中学校卒業者(見込み含む)又は中等教育学校の前期課程修了者(見込み含む)
この試験を受けられない者
- 日本国籍を有しない者
- 自衛隊法第38条第1項の規定により自衛隊員となることができない者
- 成年被後見人又は被保佐人
- 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者
- 法令の規定による懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から2年を経過しない者
- 日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者
以上を満たしていれば、問題ありません。あとは受験勉強に励んでください。
自衛隊生徒の入学試験
生徒の受験は筆記試験(一次試験)と口述試験、身体検査(二次試験)があるので、一般の高校よりも早い時期に行われます。生徒の募集は11月から1月上旬におこなわれるので、事前に志願票を最寄りの地方協力本部へ提出する必要があります。
一次試験の内容は普通の高校受験と同等ですが、高等工科学校を目指すなら偏差値60は欲しいところです。1月上旬に一般の一次試験があり、所轄の試験所にて筆記試験を受けます。
一次試験の合格発表は1月下旬にあり、地方協力本部への掲示及び本人宛通知(合格者のみ)により発表されます。無事、一次試験に合格すると、2月上旬に二次試験が行われます。
二次試験では、口述試験(面接)と身体検査をします。筆記も面接も問題がなかったのに身体検査にひっかかって不合格になったということも多々あります。自衛隊は体が資本ですので、健康管理にはくれぐれむ注意しましょう。
2月の中旬から下旬にかけて二次試験の合格発表があります。ここで合格していればほぼ問題ないのですが、気を抜くのはまだ早いです。二次試験に合格した者には意向調査が実施され、採用に応諾した者は、採用予定者となりますが、あくまでも採用予定者なのです。
採用予定者は4月初旬に陸上自衛隊高等工科学校へ行き、着校時に再度身体検査を行います。この身体検査で異常が見つかった場合は不採用となることがありますので、健康管理には十分注意してください!なお、併せて薬物使用検査を実施します。
この身体検査合格者は、正式に陸上自衛隊高等工科学校生徒として採用され、入校することになります。
私の同期でも現地での身体検査で不採用となってしまい、とんぼ返りになってしまった人がいますので、最後の身体検査まで油断は禁物です。また、身体検査に問題がなくても次の場合は採用されません。
- 中学校を卒業又は中等教育学校の前期課程を修了する見込みであった者が卒業若しくは修了できない場合
- 採用されるまでの間に隊員となるにふさわしくない行為があった場合
身体検査の合格基準
先ほどもお伝えしたように二次試験と着校時には身体検査があります。この身体検査の合格基準は以下のようになっていますので、基準を満たしていれば、よほどのことがない限り不合格になることはありません。
検査項目 | 基 準 | |
---|---|---|
15歳 | 16歳 | |
身 長 | 150cm以上 | 152cm以上 |
胸囲・体重 | 身長と均衡を保っているもの(合格基準表参照) | |
肺 活 量 | 2,800cc以上 | 3,000cc以上 |
視 力 | 両側とも裸眼視力が0.6以上、裸眼視力が0.1以上で矯正視力が0.8以上又は裸眼視力が0.1未満であって矯正視力がプラスマイナス8.0ジオプトリーを超えない範囲の屈折度のレンズによって0.8以上であるもの | |
色 覚 | 色盲又は強度の色弱でないもの | |
聴 力 | 正常なもの | |
歯 | 多数のウ歯又は欠損歯(治療を完了したものを除く。)のないもの | |
その他 (血液検査 尿 検 査 胸部X線検査 等) |
|
|
注1:記載された検査項目以外にも、自衛隊の任務を遂行する上で支障をきたす疾患(重篤な症状をきたす可能性の高い食物アレルギーなど)について不合格となることがあります。 注2:「既往歴」「手術歴」のあるものは、問診表に確実に記載し、身体検査時に必ず申し出てください。故意に事実と異なる申告をした場合は、判明した時点で不合格となることがあります。 |
合格基準表
身 長(cm) | 胸 囲(cm以上) | 体 重(Kg以上) | 体重超過の 判定基準(Kg以上) |
---|---|---|---|
150.0~ | 74 | 38.5 | 58 |
152.0~ | 74 | 39 | 60 |
155.0~ | 75 | 39.5 | 62 |
158.0~ | 76 | 40 | 64 |
161.0~ | 77 | 41 | 66 |
164.0~ | 78 | 42.5 | 68 |
167.0~ | 79 | 44 | 70 |
170.0~ | 80 | 45.5 | 72 |
173.0~ | 81 | 47 | 74 |
176.0~ | 82 | 48.5 | 76 |
179.0~ | 83 | 50 | 78 |
182.0~ | 84 | 52 | 80 |
185.0~ | 84.5 | 54 | 82 |
188.0~ | 85.5 | 56 | 84 |
191.0~ | 86 | 58 | 86 |
生徒の生活
ここまで、自衛隊生徒になるための試験についてお話してきましたが、ここからは試験に合格し、生徒として入学してからの生活についてお話します。
1日の主なスケジュール
基本的に駐屯地の敷地内で過ごします。休日は外出もできるのですが、門限が20時と決まっているうえ、当時は1年生は制服で外出という決まりがあったので、私が1学年の時は長期休暇(盆・正月)や部活動(大会や合宿)のほかには3回しか外出はしていませんでした。
1日のスケジュールとしては、朝6時に起床・点呼。6時40分ころから食堂がオープンなので朝食をとり、身支度をして7時50分ころから朝礼があり、授業へと向かい、午前中の授業を受けます。
1日の始まりは朝6時に起床ラッパで目覚め、上半身裸体で校舎前(雨の日以外は外)に整列し点呼を受けます。当時は点呼の後に間稽古というものがあり、上半身裸体のまま駆け足をしていました。寝起き直後に8~10Km程度走っていたと思います。
間稽古が終わると急いで朝食をとります。その後、歯を磨いたり制服に着替えたりと身支度を整え、朝礼があります。朝礼は各区隊ごとに行われるのですが、週に1回(当時は水曜日)だけ対象区隊朝礼といって1学年から3学年までの同区隊が合同で朝礼をしていました。この時は3学年の先輩が下級生の服装点検をし、不備1ヵ所につき腕立て伏せ10回を一緒にします。
朝礼が終わり、国旗掲揚ののち、授業が始まります。授業内容は主に一般教養です。高等学校学習指導要領に準拠した教育を受けます。この他に、専門教育として電子機械工学、情報工学 等の教育も受けます。当然、自衛官として必要な識能や資質を身につけるための防衛基礎学も勉強します。
12時になると午前中の授業は終わり、お昼休みです。
13時からは午後の授業が始まり、16時30分くらいまでが授業だったと思います。
その後クラブ活動があり、18時半くらいから夕食と入浴を済ませます。入浴まで済ませたあとは次の日に備えて、靴磨きと制服のアイロンかけをします。自衛隊員は品位を保つ義務というのを定められており、靴磨きやアイロンかけはとても上手になります。
その後は20時30分から22時30分まで自習時間というものが設けられており、その日の課題や予習・復習をします。当時は22時40分に日夕点呼があり、23時に消灯でしたが、現在は22時30分に消灯となっているので、自習時間も多少ずれがあるかもしれません。
※追記※ 現在の生徒課程では20時00分~21時55分の間が自習時間となっており、その間に10分間の休憩をはさむようです。
平日はこのようなスケジュールとなっていますが、休日は食事と入浴の時間は決められていますが、それ以外は特に決まりがありません。とはいえ、部活動は全員参加と決められており、ほとんどの部が休日も練習があるので、1・2学年のときは休日の大半が部活動でつぶれてしまいます。
2学年からは私服での外出が許可されるので1学年に比べると外出しやすくなりますが、毎週のように外出できるようになるのは3学年からと思っておいた方が良いでしょう。
自衛隊生徒についてもっと詳しく知りたい方は生徒募集のパンフレットを読んでみると良いですよ。
以上、【自衛隊生徒】高等工科学校(旧:少年工科学校) 終わり
ただいま、生徒として、入校しているものです。自習時間については、2000〜2155で間に10分間の休憩があります。
民間企業では中卒ということで昇格機会も少ない現業職に就くのが一般的ですが
ここのHPを見て驚いたのが、自衛隊工科学校の場合は幹部まで昇りつめて
活躍されておられる事実を目の当たりにしました。卒業された方の最高地位は
何処まで昇進するのでしょうか。大卒者の自衛隊員が自衛隊工科学校卒業者
の部下になることも有り得る職場なのでしょうか。もしそうであれば
若くして将来の夢を描ける職場のようにも感じました。民間で企業の利益のために
働くよりも、世のため人のために働いて感謝される素晴らしい組織に
思えました。
お返事遅くなり申し訳ございません。
自衛隊生徒の場合、神奈川県立高校と提携していますので、最終学歴は高卒となりますので、自衛隊を辞めてしまえば一般の高卒と何ら変わりはありません。
また、生徒出身者は大半が定年までに幹部になるといわれており、途中で退職する者の方が少数でございます。
卒業後の昇進につきましては、個々人の能力等によっても差がありますが、卒業生の最高地位ということですと、自衛隊最高階級の「将」ということになります。
(統合幕僚長が全自衛隊のトップとなり、陸上幕僚長が陸上自衛隊のトップとなりますが、厳密にいうとこれらは階級ではありませんので、最高階級でいうと「将」ということになります。)
生徒出身の将階級の方はたくさんいるようなのですが、生徒卒業後、防衛大学に進んだ方は、一度自衛官の身分を離れることになるので、経歴が「防大卒」となっていることが多く、幕僚長クラスに生徒出身者の方がいたのかについては特定できませんでした。
自衛隊の面白いところでもあるのですが、大卒の場合「入り方」によって入隊時の階級やその後の昇進スピードは全く異なりますので、「大卒だから」とは一概には言えませんが、生徒出身者が大卒の部下を持つことはざらにあります。
また、同じ年齢で比較したときに、生徒出身者の場合、15歳で入隊していますので、大卒の方が入隊してくるとき(22歳)には、すでに入隊7年(8年目)となります。
同じ年齢ですが、生徒出身者は3等陸曹(19歳で昇任)、大卒の方は「自衛官候補生」として入隊していれば、候補生ですのでまだ階級はありません。(入隊3ヶ月後に2等陸士に任命)
入隊3ヶ月後で2等陸士ですので、階級差3つということになります。
一方、「一般幹部候補生」として入隊していれば、採用と同時に曹長に任命され、一定期間の教育を受けたのち、3等陸・海・空尉に昇任しますので、この場合は生徒出身者よりも上官ということになります。
とはいえ、自衛隊には昇任に関して、いろいろな条件や試験がありますので、民間企業のように「高卒より大卒の方が優遇される」ということではありません。
当然、一般高校卒の方でも佐官クラスの幹部はいますし、生徒出身でも指揮官になるよりも現場で働きたいという考えの方もいますので、「生徒出身だから」「高卒だから」「大卒だから」というように一括りにはできないところもあります。(本来、生徒課程は技術陸曹を育てる課程です。)
考え方は人それぞれではありますが、生徒の場合は若干15歳にして、定年までの約40年の道が開けているので、とても有意義な環境であると思います。
私の場合は、途中で退職してしまいましたが、それでも、やはり、普通の高校に進んでいては絶対に経験できないようなことも経験させていただけましたし、自衛隊時代、生徒時代があったからこそ、現在の私があると常々感じていますので、自衛隊という組織は私にとっては特別な存在であります。